今、その瞬間しかないスキー

「滑っていて楽しい」そんな気持ちがいつもあったらいいなと思います。

きれいな空気を吸い、真っ白でやわらかな雪と対話し、自然と接するすばらしさを感じること、それが一番の楽しみです。

この楽しさをさらに深く感じる事のできるのが、ゲレンデを離れ、手つかずの山の中に踏み込んだ時です。雪が全ての音を吸収してしまうのか、この静けさの中で楽しむスキーほど、おののくような興奮を覚えることはありません。

自分が自然の中にとけこんでしまっているかのような錯覚になるのです。ただ一度だけの“いま”を感じる時です。

但し、山に入る為には、多くの知識とそれに伴った技術が必要です。「自分の命は自分で守る」ということが本当に分かっていないと山を楽しむことは危険です。

スキーを楽しみ味わう心があれば、技術の上達も早まるでしょう。そして、好きなスキーを楽しむ為に大事なのは「過去でも未来でもない、今この瞬間なのだ」という心持です。作られてきた自分は、いつまでたっても完成しないのだという気持ちでいることが大事です。また、自分の殻があると感じたならば、一度崩して新たに積み上げることも必要です。

先シーズン、インドのジュニア選手数名を、信頼する仲間達と、ここ八方尾根で指導しました。

オリンピックを目指している彼らなのに、初めは型にはまったリズムのない動きをしていました。(連続写真のコマ送りを見ている様でした)

彼らの考えの中に「一流選手の滑りが安定しているのは、体を固定し脚部だけでスキーを操作している」という思い込みがあるようでした。

その概念を崩し、彼らが自由に伸びのびと全身で動けるようになるまで時間はかかりましたが、上達は目覚ましく誰の目にもその変化が解るくらいになりました。体の隅々まで目を向けさせ、滑らかに動いているかどうかを確認してもらいました。

私たちは、体の一部を動かしスキーを操作するのではなく、身体は全部つながっているのだから、休んでいる所が無いように動かす練習をしました。また「動作や形の正しさ」を教えることをせず、身体を固めることなく動き続けるよう指導しました。

「今までの滑り方や感覚を捨て、毎回、新たなキャンバスに絵を描くような気持ち」で滑らせたのです。

いい感じの滑りが出来ても、それ一回でおしまい。次はまた新たな気持ちで・・・と、いった感じで何本も。それこそ「一度きりの今しかないスキー」が楽しめるように。

この指導が終わりに近づいた頃、彼らは刻々と変化する雪質の以前との“差”や“変化”をより正確に知るようになり、それに合った滑りが出来るようになっていました。これは、八方尾根の長いコースを何本も滑ったからだと思います。

スキーの原点とは、「より楽しむ」ということ。スキーのゴールとは、自分と自然との調和だと思います。

我々は、そのゴールに向かう過程に経験する「楽しさ」を体感するために滑るのだと思います。「勝利とは楽しむ」こと、相手に勝つことだけがすべてではない。

即ちスキーからは、テクニック以上の尊いことを学ぶことが出来る、と思っています。(2015年10月6日 サダハル)